不動産を特定の子供にだけ相続させる遺言の書き方と、「遺留分」トラブルの防ぎ方
- 2026.09.03
「家業や実家の不動産は、特定の子に継がせたい」——そう考えて遺言を書いても、他の相続人の「遺留分」を無視すると、かえって争いの火種になります。本記事では、遺留分に配慮した遺言の書き方を司法書士が解説します。
遺留分とは
一定の相続人に法律上保障された、最低限の取り分です。民法1042条1項は「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として…」と定めており、配偶者・子(及びその代襲相続人)・直系尊属が対象です。遺留分を侵害する内容の遺言も、それだけで無効になるわけではありません。 ただし、遺留分を有する相続人から遺留分侵害額請求をされ、侵害された額に相当する金銭の支払いを求められることがあります。兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺留分の割合
遺留分の割合は、直系尊属(父母や祖父母)だけが相続人である場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1です(民法1042条1項)。相続人が複数いるときは、この割合にさらに各自の法定相続分を乗じた割合が、その人の遺留分になります(同条2項)。
たとえば相続人が配偶者と子1人なら、全体の遺留分2分の1に法定相続分2分の1を乗じ、それぞれ4分の1ずつが遺留分となります。
遺留分を無視するとどうなる
「全財産を長男に相続させる」と遺言に書いても、遺留分を有する他の相続人は「遺留分侵害額請求」によって、侵害された分に相当する金銭の支払いを請求できます。つまり、遺言どおりに渡したつもりでも、後からお金の請求で揉めることになりかねません。
遺留分侵害額請求には期間制限があります
遺留分権利者が「相続の開始」と「遺留分を侵害する贈与または遺贈があったこと」の両方を知った時から1年間行使しないと時効によって消滅し、これを知らなくても相続開始の時から10年を経過すると請求できなくなります(民法1048条)。「知ってから1年」は非常に短いため、遺言の内容に納得がいかない場合は早めにご相談ください。
遺留分の算定に含まれる生前贈与
遺留分を算定する基礎には、一定の生前贈与も含まれます。原則として、第三者への贈与は相続開始前1年間、相続人への特別受益に当たる一定の贈与は相続開始前10年間のものが対象です(民法1044条)。
ただし、相続人への贈与で算入されるのは、婚姻もしくは養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与(いわゆる特別受益)に限られます(同条3項)。また、贈与した人と受け取った人の双方が「遺留分権利者に損害を加えることを知って」贈与をした場合には、これらの期間より前の贈与であっても算入されます(同条1項後段)。
不動産を特定の子に相続させる遺言の書き方の例
基本は、次のような形になります。
遺言者は、遺言者の所有する次の不動産を、長男○○に相続させる。
ただし実際には、不動産を登記事項に沿って特定し、残余財産の取得者、取得予定者が先に亡くなった場合の予備的な定め、遺留分への配慮なども含めて設計する必要があります。遺言の方式にも法律上の要件があるため、上記はあくまで条項の一例です。
遺留分に配慮した設計
- 遺留分相当は確保する内容にしておく
- 不動産を継ぐ人が、請求を受けた場合の遺留分侵害額の支払資金を準備しておく
- 生命保険を支払資金の準備方法の一つとして検討する
- 付言事項で「なぜこの分け方にしたのか」という理由・想いを伝える
生命保険については、たとえば不動産を承継する子を受取人として支払資金を準備する方法が検討されます。一方で、他の相続人を死亡保険金の受取人にしたからといって、その保険金額が当然に遺留分侵害額から差し引かれるわけではありません。死亡保険金は原則として受取人固有の権利とされており、受取人・契約内容・金額などに応じた検討が必要です。
なお、付言事項に法的な拘束力はありません。 付言を書いたからといって、遺留分侵害額請求を封じられるわけではありません。それでも、なぜこの分け方にしたのかが伝わることで、ご家族の受け止め方が変わることはあります。法的な効果を期待するものではなく、気持ちの面の補いとして位置づけるものです。
遺留分の放棄は、生前には家庭裁判所の許可が必要です
「他の子に遺留分を放棄してもらえばいいのでは」と考えられることがあります。
遺留分は、相続開始前でも放棄することができますが、家庭裁判所の許可を受けなければ効力を生じません(民法1049条1項)。家庭裁判所は、申立人の意思や放棄に至った事情などを確認して判断するため、申し立てれば必ず許可されるわけではありません。
覚書を交わしただけでは遺留分の放棄にならない点にご注意ください。なお、相続が開始した後に遺留分侵害額請求をしない、又はその請求権を放棄する場合には、民法1049条の家庭裁判所の許可は必要ありません(同条が許可を求めているのは「相続の開始前」の放棄です)。
家業を継がせる場合には、遺留分の「民法特例」を検討できることがあります
ここまでは、民法の原則的なルールの話です。一方、事業を後継者に集中させて承継させる場面については、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)に、遺留分に関する民法の特例が置かれています。
まず押さえていただきたいのは、これは「遺言」の制度ではない、ということです。 対象になるのは、先代から後継者へ、生前の贈与によってすでに移してある株式等や事業用資産です。「遺言で将来この子に継がせる」という設計に、そのまま使えるものではありません。生前に承継を進めている場合の選択肢としてお考えください。
主な内容は次の2つです。
- 除外合意……後継者が生前贈与等で取得した株式等・事業用資産の全部または一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないとする合意
- 固定合意……遺留分の算定に算入する価額を、合意時の価額に固定する合意(その後に価値が上がっても、上がった分は遺留分の計算に反映されない)。これは会社の株式等についてのみ利用できます。 また、固定する価額は、弁護士・公認会計士・税理士など、法律に定められた専門家が「相当な価額」であることを証明したものに限られます(当事者だけで決めることはできません)
会社(株式等)の場合は除外合意・固定合意の両方を、個人事業者の場合は除外合意のみを利用できます。
合意の当事者は、先代の推定相続人(兄弟姉妹とその子を除きます)と、後継者の全員です。後継者が相続人ではない場合もあるため、「推定相続人全員」だけでは足りません。
また、合意には、後継者が対象の株式等・事業用資産を処分した場合や、先代の生存中に経営・事業から離れた場合に、他の推定相続人がとることができる措置をあわせて定めなければなりません。
そのうえで、合意の日から1か月以内に経済産業大臣の確認を申請し、確認を受けた日から1か月以内に家庭裁判所の許可を申し立てます。家庭裁判所は、合意が当事者全員の真意に出たものであるとの心証を得なければ許可できません。家庭裁判所の許可が要る点は、前項の遺留分の放棄と共通します。当事者間の合意だけでは効力を生じません。
ただし、この特例は、どの不動産にでも使えるものではありません。
個人事業者の場合、法令上の「事業用資産」は、事業に使っている資産すべてを指すわけではありません。贈与の前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されているもののうち、次のものに限られます。
- 宅地等……建物または構築物の敷地として使われている土地・土地の上に存する権利(棚卸資産を除く)
- 建物(棚卸資産を除く)
- 一定の減価償却資産(償却資産、営業用の標準税率が適用される自動車など)
さらに、先代が3年以上継続して事業を行っていたこと、事業用資産の全部を後継者に贈与していることが必要です(そのうえで、合意の対象はその全部または一部とすることができます)。
単に「実家(自宅)を特定の子に継がせたい」という場面では、通常この特例の対象にはなりません。 店舗や工場の建物とその敷地、営業用の設備などを、生前に後継者へ集中させていく場面で検討の余地があるものとお考えください。
そして、大阪でとくにご注意いただきたい点があります。不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業は、この特例の「事業」から除かれています(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則1条29項・2条2項)。アパートや貸家、貸ビル、貸駐車場を特定の子に継がせたいという場合には、この特例は使えません。 「収益不動産をまとめて長男に」というご相談は多いのですが、その場面ではこの特例の出番はなく、遺言と遺留分の原則的なルールで設計することになります。
なお、1階が店舗で2階が住居といった店舗併用の建物や、事業用と賃貸用が混在している建物の扱いは、個別に検討が必要です。
対象となるかどうかの判断や、確認・許可の手続きには専門的な検討が必要です。当法人では、初回のご相談から、この特例に関する手続き全体の窓口をお引き受けします。
ご家族関係と、対象になり得る財産・登記関係を整理し、この特例を検討する余地があるかを確認したうえで、家庭裁判所への許可の申立書類の作成までお手伝いします(申立ての代理は行いません)。承継に伴う登記も当法人で対応します。
経済産業大臣への確認申請や、事業用資産・価額についての証明など、手続きに必要となる他の専門家の関与についても、当法人が窓口となって手配します。お客様のほうで専門家を探し直していただく必要はありません。ただし、推定相続人の間で意見が対立している場合など、交渉や紛争対応が必要な場面では提携弁護士をご案内します。 なお、税理士等へのご依頼は、それぞれの専門家との別個の契約となり、これらへのご依頼を当法人の司法書士業務の受任条件とするものではありません。
不動産を特定の子に継がせたい場合
不動産は分けにくいため、不動産以外の財産で他の相続人の遺留分を確保するか、遺留分侵害額請求を受けた場合に支払える資金を準備しておくことが重要です。手元資金が足りない場合に、生命保険を支払資金とする方法がとられることもあります(具体的な保険商品のご提案や勧誘は行っておりません)。
なお、遺留分侵害額の支払いを直ちには用意できない場合、受遺者又は受贈者の請求により、裁判所がその債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与できるとされています(民法1047条5項)。裁判所が自動的に猶予する制度ではありません。もっとも、これは紛争になった後の話です。先に原資を用意しておくほうが、ご家族の負担は小さくなります。「継がせたい」だけでなく「争わせない」ところまで設計することが大切です。
【見落としがち】遺言どおりに財産が承継されなくなる2つの場面
遺言書を作って安心してしまいがちですが、作った後の事情で、意図しない結果になることがあります。
1.渡すはずの相手が、先に亡くなった場合
「長男に実家を相続させる」という遺言を作ったとします。その後、長男がご本人より先に亡くなったらどうなるでしょうか。
「長男の子(孫)が代わりに受け取る」と考えてしまいそうですが、原則として、孫がその遺言条項によって当然に受け取るわけではありません。
遺贈については、民法994条1項が「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と定めています。
さらに「相続させる」旨の遺言についても、最高裁は、遺言書の記載や作成当時の事情などから、代襲者その他の者に財産を承継させる意思があったとみるべき特段の事情がない限り、その遺言条項は効力を生じないと判断しています(最判平成23年2月22日)。
そのため、特段の事情や別の予備的な条項がなければ、その財産は当該遺言条項による指定から外れ、法定相続・遺産分割の対象となることがあります。 争いを避けるために作った遺言が、その部分だけ効かないという事態です。
これを防ぐのが「予備的遺言(補充遺言)」です。
長男□□に相続させる。ただし、長男□□が遺言者の死亡以前に死亡していたときは、同人に相続させるものとした財産は、孫△△に相続させる。
このような予備的条項を設けることで、長男が先に亡くなった場合の承継先をあらかじめ定めておくことができます。具体的な条項は、家族関係やほかの遺言条項との整合性も踏まえて設計する必要があります。ご家族の年齢が近い場合や、受け取る方がご高齢の場合には、入れておく意味が大きくなります。
2.遺言を作った後に、その不動産を売却した場合
「実家は長男に」と遺言した後で、施設の費用のためにその実家を売却した、というケースです。
この場合、遺言が遡って無効になるわけではありませんが、売却した部分については遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条2項)。
問題は、売却代金が手元に残った場合に、それを誰が取得するのかが遺言に書かれていないことです。実家を長男に渡すつもりだったのに、他に残余財産についての定めがなければ、その現金が法定相続・遺産分割の対象となることがあります。
対策は二つあります。
- 遺言を作り直す(確実ですが、その都度の手間と費用がかかります)
- あらかじめ包括的な定めを入れておく(例:「その他一切の財産は長男□□に相続させる」)
ただし、残余財産まで同じ子に取得させる場合は、遺留分への影響も含めて全体を設計する必要があります。
遺言は、作って終わりではありません。 財産の内容やご家族の状況が変わったときには、内容が今も合っているかを見直すことをおすすめします。
司法書士に相談するメリット
当法人では、遺留分を踏まえた遺言の設計、遺留分侵害額の支払資金を含む財産構成の整理・検討、そして公正証書遺言の作成サポートまで対応します。争いになった場合の遺留分侵害額請求などは、提携弁護士と連携します。
- 相続人・遺留分の整理
- 遺留分に配慮した遺言内容の設計
- 付言事項の作成、公正証書化のサポート
- 紛争化した場合の弁護士との連携
よくあるご質問
Q. 遺言で全部を一人に渡せますか?
A. 書くことはできますし、遺言自体が無効になるわけでもありません。ただし遺留分を有する他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があり、金銭の支払いをめぐって争いになることがあります。遺留分を踏まえた上で、支払いの原資まで含めて検討することをおすすめします。
Q. 兄弟姉妹にも遺留分がありますか?
A. 兄弟姉妹には遺留分はありません。
Q. 不動産しかなく、遺留分侵害額を支払う現金が用意できません。
A. まず、不動産以外の財産で他の相続人の遺留分を確保できないか、また、不動産を取得する方が請求を受けた場合の支払資金を準備できないかを検討します。
それが難しい場合には、不動産の全部を一人に相続させる設計そのものを見直し、一部の持分を他の相続人に取得させる方法なども検討対象になります。生命保険が支払資金を準備する一つの方法になることもありますが、受取人や契約内容等によって法的な取扱いが異なります。なお、具体的な保険商品のご提案や勧誘は行っておりません。
Q. 他の子に遺留分を放棄してもらうことはできますか?
A. 生前に遺留分を放棄するには、放棄するご本人が家庭裁判所の許可を受ける必要があります(民法1049条1項)。覚書を交わすだけでは放棄にならず、許可されるかどうかは家庭裁判所が判断します。
まとめ・ご相談
- 店舗やアパートなどの不動産を特定の子に継がせたいが、揉めないか不安
- 遺留分をどう配慮すればいいか分からない
- 遺言をどう書けばいいか分からない
「どう書けばいいか決まっていなくても大丈夫です。」大阪オフィスは大阪メトロ谷町線・都島駅4番出口から徒歩1分です。和歌山オフィス(JR和歌山駅東口から徒歩13分・駐車場1台分)でも同じ内容をお受けしていますので、ご都合のよい拠点をお選びください。 まずは無料相談をご利用ください。
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初回のご相談は無料です。 ご来所による相談のほか、オンライン面談にも対応しています。
※本記事は一般的な解説です(2026年9月時点)。遺留分の計算は事案により異なり、紛争性のある事案は提携弁護士、税務は税理士、不動産の売買・仲介はグループ会社(株式会社ARIA Partners)等の宅地建物取引業者をご案内します。記載は執筆時点の法令に基づくもので、結果を保証しません。税理士・弁護士・土地家屋調査士・宅地建物取引業者への依頼は、それぞれの専門家との別個の契約となり、これらへの依頼を当法人の司法書士業務の受任条件とするものではありません。

2013年 関西大学法学部に入学
2017年 卒業と同時に司法書士試験の勉強開始
2019年 令和元年度司法書士試験に合格
2020年 大手司法書士法人に勤務
2021年 ARIA司法書士事務所を開業
2023年 司法書士法人ARIAグループを設立









































