自筆証書遺言書保管制度のメリット・デメリット|法務局に預ければ検認は不要?
- 2026.09.03
「自分で遺言を書いておきたいけれど、紛失や改ざんが心配」「遺された家族に手間をかけたくない」——そんな方に向けて2020年7月10日に始まったのが自筆証書遺言書保管制度です。自分で書いた遺言書を法務局が預かってくれる制度で、家庭裁判所の検認が不要になるなどのメリットがあります。一方で注意点もあります。
自筆証書遺言書保管制度とは
法務局(遺言書保管所)が、自筆証書遺言の原本と画像データを保管してくれる制度です。原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは150年間、適正に管理されます。自宅で保管する場合の紛失・改ざん・隠匿といったリスクを避けられます。
メリット
- 家庭裁判所の検認が不要になり、相続開始後の家族の手続き負担が軽くなる(遺言書保管法11条)
- 紛失・改ざん・隠匿を防ぎ、遺言書が発見されないリスクも減らせる
- 保管申請時に、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて、遺言書保管官の外形的なチェックを受けられる
- 相続開始後、家族に遺言書の存在が伝わる2種類の通知がある
2種類の通知(よく混同されます)
① 関係遺言書保管通知
遺言者の死亡後、相続人や受遺者などの関係相続人等のうち誰か1人が遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付を受けると、法務局がその他すべての関係相続人等に通知します。事前の指定は必要ありません。
② 指定者通知
保管の申請時にあらかじめ通知してほしい相手を指定しておくと、法務局が戸籍担当部局との連携によって遺言者の死亡を確認した時点で、その方へ通知します。
令和5年(2023年)10月2日から運用が拡大され、それまで「受遺者等・遺言執行者・推定相続人のうち1名」に限られていた指定対象者が、これらの者に限定されなくなり、人数も3名まで指定できるようになりました。すでに1名を指定している方も、変更の届出により追加できます。
※「死亡時通知」は旧来の呼び名で、現在の法務省の案内では「指定者通知(遺言者が指定した方への通知)」と表記されています。
デメリット・注意点
- あくまで保管の制度であり、遺言の内容の有効性を保証するものではありません。形式の外形チェックは受けられても、内容の適否や、後の紛争を防げるかは別問題です
- 申請には本人が法務局へ出頭する必要があります(予約制)。代理申請や郵送申請はできません(遺言書保管法4条6項)
- 形式の要件は厳格で、不備があると保管してもらえないことがあります
申請できる法務局(管轄)
保管の申請ができるのは、①遺言者の住所地、②遺言者の本籍地、③遺言者が所有する不動産の所在地——のいずれかを管轄する遺言書保管所です(遺言書保管法4条3項)。この3つのどこを選んでも構いませんが、2通目以降を追加で預ける場合は、最初に申請したのと同じ遺言書保管所に申請する必要があります。
手数料
| 手続 | 手数料 |
|---|---|
| 遺言書の保管の申請 | 1件につき3,900円 |
| 遺言書の閲覧(モニター) | 1回につき1,400円 |
| 遺言書の閲覧(原本) | 1回につき1,700円 |
| 遺言書情報証明書の交付 | 1通につき1,400円 |
| 遺言書保管事実証明書の交付 | 1通につき800円 |
収入印紙で納めます。なお、保管の申請の撤回や、住所等の変更の届出は手数料不要です。
【誤解の多いところ】保管の申請の撤回は、遺言の撤回ではありません
名前が似ているため混同されがちですが、まったく別のことです。
保管の申請を撤回すると、法務局から遺言書の原本が返還されます。しかし、保管申請を撤回しただけで、遺言そのものの効力が失われるわけではありません。 返ってきた遺言書は、ご自宅で保管する自筆証書遺言として扱われます(保管制度の外ではあるため、相続開始後は家庭裁判所の検認が必要になります)。
遺言の内容そのものをやめたい場合は、遺言書を破棄するか、新しい遺言書で前の遺言を撤回する必要があります。
内容を書き直したいとき
保管されている遺言書そのものに、あとから加筆や訂正をすることはできません。
内容を変更したい場合、分かりやすい方法としては次の流れがあります。
- 保管の申請を撤回し、遺言書の原本を返してもらう
- 新しい遺言書を作成する
- あらためて保管の申請をする(保管手数料3,900円が再度かかります)
法務省も、保管中の遺言書の内容を変更したい場合には、いったん保管申請を撤回したうえで内容を変更し、再度保管を申請する方法を案内しています。
ただし、これが唯一の方法というわけではありません。 法律上は、あとから新しい遺言書を作成して、以前の遺言の全部または一部を撤回・変更することもできます(民法1022条)。どの方法が適しているかは、遺言の内容や保管の状況によって異なります。
なお、撤回の手続きも、遺言書の原本が保管されている遺言書保管所で、ご本人が行う必要があります。
相続が起きた後、ご家族は何をするのか
この制度は、遺言を残す側だけでなく、残されたご家族の側にも知っておいていただきたい手続きがあります。
遺言書が預けられているか調べる――遺言書保管事実証明書
亡くなった方について、自分が関係相続人等となる遺言書が保管されているかどうかを調べるための証明書です(1通800円)。全国どの遺言書保管所でも請求でき、郵送による請求も可能です。
「遺言があるかどうか分からない」という段階では、まずこれを請求します。
内容を確認し、手続きに使う――遺言書情報証明書
遺言書の画像を含む証明書で、遺言書の原本に代わる資料として、相続登記や銀行での相続手続きなどに利用できます(1通1,400円。金融機関ごとに追加の書類を求められることがあります)。
この証明書の交付を受けたり、遺言書を閲覧したりすると、原則として、その他の関係相続人等にも「遺言書が法務局に保管されていること」が通知されます(前述の関係遺言書保管通知)。遺言書の存在が他の関係者にも共有されやすい仕組みです。
ただし、この通知によって遺言書の内容そのものが自動的に全員へ送られるわけではありません。 通知を受けた方が内容を確認するには、ご自身で遺言書情報証明書の交付請求や閲覧の手続きを行う必要があります。
そもそも自筆証書遺言の“方式”に注意
自筆証書遺言は、原則として全文・日付・氏名を自書し、押印することが必要です(民法968条1項)。財産目録については自書が不要で、パソコン作成や通帳のコピー添付も認められますが、その目録の毎葉(各ページ。自書によらない記載が両面にある場合は両面)に署名し、押印しなければなりません(同条2項)。この方式を満たさないと、そもそも遺言として無効になります。
※2026年6月24日に公布された改正民法(令和8年法律第45号)では、遺言における押印の任意化や、電子データ等で作成して法務局に保管する新たな「保管証書遺言」の創設が予定されています。押印の任意化等は公布から1年以内、保管証書遺言は公布から3年以内の政令で定める日に施行されますが、2026年9月時点ではいずれも未施行です。 現時点で自筆証書遺言を作成する場合は、従来どおり現行法の方式に従う必要があります。
公正証書遺言との比較
| 比較項目 | 自筆証書遺言+保管制度 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成する人 | 本人が自筆 | 公証人が作成 |
| 証人 | 不要 | 2人以上が必要(推定相続人・受遺者やその配偶者・直系血族はなれません) |
| 費用 | 保管手数料3,900円 | 公証人手数料がかかる |
| 方式不備のリスク | 本人が作成するため残る | 公証人が関与して作成するため低い |
| 検認 | 不要 | 不要 |
| 原本の保管 | 法務局 | 公証役場 |
ただし、公正証書遺言であっても、遺言能力などをめぐって後に争いになる可能性が完全になくなるわけではありません。
司法書士に相談するメリット(どんな遺言を残すべきかの整理から)
遺言でいちばん大切なのは、「保管方法」よりも「どんな内容の遺言を、どの方式で残すか」です。ここを誤ると、せっかくの遺言が無効になったり、かえって争いのもとになったりします。
- ご家族・財産の状況をうかがい、自筆(保管制度)と公正証書のどちらが向くかを整理
- 遺言者のご意向に沿った文案作成の支援や、方式・記載内容の確認
- 遺留分に配慮した内容や、付言事項の活用の提案
- 遺言・生前贈与・家族信託などの選択肢について、登記・法務面を中心に整理し、必要に応じて税理士等の専門家と連携
「遺言を残したいが、何をどう書けばいいか分からない」段階から、一緒に整理できます。
よくあるご質問(Q&A)
Q. 保管してもらえば、遺言の内容は必ず有効ですか?
A. いいえ。保管制度は形式の外形チェックまでで、内容の有効性を保証するものではありません。
Q. 家族に代わりに預けてもらえますか?
A. できません。遺言者ご本人が法務局に出頭する必要があります(代理・郵送は不可)。
Q. 遺言の内容は後から変更できますか?
A. できます。ただし保管中の遺言書に加筆・訂正することはできません。一度保管の申請を撤回して原本を返してもらい、新しい遺言書を作成して、あらためて保管を申請する流れになります(保管手数料が再度かかります)。
Q. 保管を撤回すれば、遺言をなかったことにできますか?
A. いいえ。撤回は遺言書を返してもらう手続きであり、遺言そのものの効力は残ります。 内容をやめるには、遺言書を破棄するか、新しい遺言書で前の遺言を撤回する必要があります。
Q. 親がこの制度を使っていたかもしれません。調べられますか?
A. 遺言書保管事実証明書を請求すれば、保管の有無を確認できます(1通800円)。全国どの遺言書保管所でも、郵送でも請求できます。
まとめ・ご相談
- 遺言を残したいが、自筆と公正証書のどちらがよいか分からない
- 自分で書いた遺言が有効か不安
- 特定の家族に多く残したいが、争いにならないか心配
「どんな遺言にするか決まっていなくても大丈夫です。」「大阪メトロ谷町線・都島駅4番出口から徒歩1分」の当法人で、遺言内容の整理や文案作成の支援、法務局への保管申請に向けた準備までサポートします。なお、保管申請自体はご本人に法務局へ出向いていただく必要があります(代理・郵送はできません)。
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初回のご相談は無料です。 ご来所による相談のほか、オンライン面談にも対応しています。
※本記事は一般的な制度・手続きの解説です(2026年9月時点)。手数料額や要件は改正されることがあります。税務は税理士、不動産の売買・仲介はグループ会社(株式会社ARIA Partners)等の宅地建物取引業者、紛争性のある事案は提携弁護士をご案内します。記載は執筆時点の法令に基づくもので、結果を保証しません。税理士・弁護士・土地家屋調査士・宅地建物取引業者への依頼は、それぞれの専門家との別個の契約となり、これらへの依頼を当法人の司法書士業務の受任条件とするものではありません。

2013年 関西大学法学部に入学
2017年 卒業と同時に司法書士試験の勉強開始
2019年 令和元年度司法書士試験に合格
2020年 大手司法書士法人に勤務
2021年 ARIA司法書士事務所を開業
2023年 司法書士法人ARIAグループを設立









































